
沖縄県感染管理研究会
会長 椎木創一
第37回 沖縄感染管理研究会 挨拶
古くから、ヒトが罹患する感染症の多くが動物から由来したものであることは知られていました。新たな感染症はヒトと動物が接する場所で起こりやすく、エボラウイルス病はアフリカでサルとヒトとの間での接触が原因となりました。しかし、こうした疾患が日本からは遠く離れた渡航者も多くはない地域で起きていた頃には、日本人が自分事として考えることは少なかったと感じます。
しかし2015年に発生した隣国韓国におけるMERS(Middle East Respiratory Syndrome;中東呼吸器症候群)の流行は中東からの帰国者に由来し、医療従事者を中心に多くの感染者を韓国内で生みました。中東ではラクダを由来としたMERSのヒト感染が起きており、ヒト・モノの移動が世界的に加速しているなか、病原体の移動も「とてつもなく」早くなっていることを印象づけました。このときにWHOのFukuda医師は次のように韓国にアドバイスをしていました。
- “Healthcare providers didn’t expect MERS to walk through the door.”
(医療従事者はMERSがそのドアを開けて入ってくるなんて思ってもいなかった)
- “In a highly mobile world, all countries should always be prepared for the unanticipated possibility of outbreaks of this and other serious infectious diseases.”
(世界の動きはとても激しい。だからどの国であってもMERSやそれ以外の重篤な感染症のアウトブレイクが予想外に起こることにいつも備えておかなくてはね)
これは韓国に向けた言葉でありながら、日本にとっても「うちあたい」する言葉であったと記憶しています。1)
そして家畜を由来とした薬剤耐性菌の問題が明確になってきてから「ワンヘルス(one health)」の概念がAMR対策の中で明確に触れられることとなりました。2) 院内で起こる耐性菌問題がその地域やヒトの社会だけでなく、動物や植物とのつながりにも関わっていることが明確になり、ヒトがヒトのことだけを気にしていればよいのではない時代に入っています。さらに、微生物は変化を続けています。米国で2024年から起きている鳥インフルエンザH5N1の乳牛における感染の広がりは、ウイルスや細菌が種を超えて伝播する力を持っていることを再確認させるものです。3) 我々人間が多くの動物(主に家畜や家禽)に支えられて生活している以上は、ヒト以外の動物における感染症や耐性菌の広がりを見過ごすことはできません。
今回は近年問題となっている耐性菌や動物由来感染症についてどのように備える必要があるのか、様々な視点で皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
「あらゆる施設で安全で快適、かつ経済的で質の高い医療を提供出来るようになることを目的とする」という本会の会則は、遠藤和郎先生が繰り返し語ってくださっていた感染対策の大きな目的です。多くの患者や医療従事者、そして地域の人々にとって、思いやりを持ちながら当たり前に行われる感染対策を目指し、皆さんと今後もご協力しながら、本研究会がさらに発展をすることを祈りつつ、ご挨拶とさせて頂きます。
1)UN News:MERS outbreak in Republic of Korea is ‘wake-up call’ for highly mobile world – UN health agency ( https://news.un.org/en/story/2015/06/501902-mers-outbreak-republic-korea-wake-call-highly-mobile-world-un-health-agency )
2)厚労省:薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027) 概要( https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/ap_gaiyou.pdf )
3)CIDRAP: USDA reports reveal biosecurity risks at H5N1-affected dairy farms. 2024/6/14 ( https://www.cidrap.umn.edu/avian-influenza-bird-flu/usda-reports-reveal-biosecurity-risks-h5n1-affected-dairy-farms )

沖縄県感染管理研究会 名誉会長挨拶
故 遠藤和郎 先生
沖縄県感染管理研究会は2006年に第20回を迎えました。歴史ある研究会の活動を広くお知らせするために、ホームページを作製いたしました。会員の皆さまはもとより、多くの医療関係者にご覧いただき、より良い感染管理の実践に結びつけていただきたく存じます。また医療関係者以外の方々には、限られた医療資源の中、日夜努力を続ける医療従事者の活動の一端をご覧頂ければ幸いです。
ここで本研究会の歴史を手短に述べさせていただきます。1987年に琉球大学医学部麻酔科 奥田教授とテルモ沖縄営業所初代所長 宗氏が、「沖縄県の医療に貢献する」を目標に本研究会を立ち上げられました。本研究会の最大の特徴は、医師、看護師、薬剤師、検査技師などが一同に集まり、臨床についての発表を気軽にできる場とすることでした。この伝統は今も受け継がれ、職種を越えた発表が毎回あります。発足時の名称は、「沖縄県医療材料・滅菌管理研究会」と言い、「滅菌研究会」の略称で親しまれていました。古株の看護師さんの中には今でも滅菌研究会とおっしゃる方も居られます。名称に相応しく、当初の発表は中材を中心とした滅菌業務および消毒関係の発表が多かったと記憶しています。1990年になるとメチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)の院内感染が注目を浴び、発表内容は消毒、滅菌に限らず、院内感染対策全般にわたるようになりました。1999年に奥田教授の退官に伴い、私が会長を引き継がせていただきました。感染管理についての討論をより活発化させるために、名称を「沖縄県感染・医療材料管理研究会」に変更することとしました。その後、感染管理という言葉は完全に市民権を得、いわゆる院内感染対策のみならず、消毒・滅菌および医療経済的な内容も含まれるようになりました。こういった時代背景をうけて2003年に「沖縄県感染管理研究会」に名称を変更いたしました。
感染対策の目的は、
①患者さんを感染から守る、
②職員を感染から守る、
③医療資源の適正利用、そして最終的に
④良質な医療の提供です。
感染対策の充実と徹底により、患者さん・医療従事者・社会に役立つ医療の提供に貢献したいと考えております。
