沖縄県感染管理研究会
会長 椎木創一
第34回 沖縄感染管理研究会 挨拶
沖縄県感染管理研究会
会長 椎木創一
第36回 沖縄感染管理研究会 挨拶
感染対策の必要性が声高に語られ始めたきっかけは院内感染でした。医療機関の内部で発生する感染のコントロールが喫緊の課題であり、当研究会でも多くの演題発表や講演が行われました。しかし、時を経て2009年のパンデミック(H1N1)インフルエンザ、1) 沖縄県で101人の感染者が出た2018年の麻疹流行、2) そして2022年からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行、これらは国外で発生した感染症が日本、沖縄県の医療施設や介護福祉施設の外から訪れたのです。こうした感染症の大きな波は各施設の努力だけでは対応できず、地域内で情報を共有し、医療資源・介護資源を考慮して罹患者対応の調整を行い、医療・介護従事者を守ることが重要でした。
このように感染症に関して地域の医療機関・介護施設、保健行政の協力・連携なくして対応できない事象が次々に発生することを勘案して、本研究会では「地域で取り組む感染対策」を重要なテーマとして取り上げることとしました。その中にも多くの課題がありますが、特に今回は「災害時の感染症診療・対策」と「薬剤耐性菌」に注目しています。
2024年1月1日に石川県を中心に発生した能登半島地震では、物理的被害のみならず避難所を中心に感染症の多発が問題となりました。従来存在している感染症発生動向調査だけでは避難所や地域で発生する感染症を迅速に捕捉できないため、新たな情報収集の方策を実施しつつ、現地にも多くの医療従事者が赴いて限られた人員・資源の中で感染症診療や感染対策の支援に奔走されました。被災地と支援者の連携がいかに重要であるか、どの地域でも起こり得る「災害」というものへの備えとして何が必要であるのか、沖縄県の私たちにも多くの課題を突きつけました。
一方、地震のように目に見えない形で静かに地域を襲い”silent pandemic”を呈しているのが「薬剤耐性菌」です。3) 2015年 世界保健機関(WHO)がグローバル・アクション・プランを採択して、本邦でも2016年から薬剤耐性(AMR)アクションプランが始まりました。4,5) 日本では黄色ブドウ球菌に占めるMRSA割合は先進国の中でも非常に高く、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)やカルバペネム耐性腸内細菌目細菌は単独の医療施設だけでなく、地域での発生として報告されています。抗菌薬適正使用や適切な手指衛生と感染対策は、その患者や施設を守るためだけでなく、地域を耐性菌流行から守るという意味でも必須の取り組みになっているのです。
「あらゆる施設で安全で快適、かつ経済的で質の高い医療を提供出来るようになることを目的とする」という本会の会則は、遠藤和郎先生が繰り返し語ってくださっていた感染対策の大きな目的です。多くの患者や医療従事者、そして地域の人々にとって、思いやりを持ちながら当たり前に行われる感染対策を目指し、皆さんと今後もご協力しながら、本研究会がさらに発展をすることを祈りつつ、ご挨拶とさせて頂きます。
1) IASR「パンデミック(H1N1)2009発生から1年を経て」Vol. 31 p. 250-251: 2010年9月号(https://idsc.niid.go.jp/iasr/31/367/dj3671.html)
2) IASR「外国人観光客を発端とした麻しんアウトブレイクの行政対応―沖縄県」 Vol. 40 p53-54: 2019年4月号(https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2441-iasr/related-articles/related-articles-470/8734-470r02.html)
3) Silent Pandemic – The global fight against antimicrobial resistance. (https://www.amr-film.com)
4) AMR臨床リファレンスセンター「アクションプランとは」(https://amrcrc.ncgm.go.jp/020/020/index.html)
5) AMR臨床リファレンスセンター「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」の背景(https://amr.ncgm.go.jp/medics/2-4.html)
沖縄県感染管理研究会 名誉会長挨拶
故 遠藤和郎 先生
沖縄県感染管理研究会は2006年に第20回を迎えました。歴史ある研究会の活動を広くお知らせするために、ホームページを作製いたしました。会員の皆さまはもとより、多くの医療関係者にご覧いただき、より良い感染管理の実践に結びつけていただきたく存じます。また医療関係者以外の方々には、限られた医療資源の中、日夜努力を続ける医療従事者の活動の一端をご覧頂ければ幸いです。
ここで本研究会の歴史を手短に述べさせていただきます。1987年に琉球大学医学部麻酔科 奥田教授とテルモ沖縄営業所初代所長 宗氏が、「沖縄県の医療に貢献する」を目標に本研究会を立ち上げられました。本研究会の最大の特徴は、医師、看護師、薬剤師、検査技師などが一同に集まり、臨床についての発表を気軽にできる場とすることでした。この伝統は今も受け継がれ、職種を越えた発表が毎回あります。発足時の名称は、「沖縄県医療材料・滅菌管理研究会」と言い、「滅菌研究会」の略称で親しまれていました。古株の看護師さんの中には今でも滅菌研究会とおっしゃる方も居られます。名称に相応しく、当初の発表は中材を中心とした滅菌業務および消毒関係の発表が多かったと記憶しています。1990年になるとメチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)の院内感染が注目を浴び、発表内容は消毒、滅菌に限らず、院内感染対策全般にわたるようになりました。1999年に奥田教授の退官に伴い、私が会長を引き継がせていただきました。感染管理についての討論をより活発化させるために、名称を「沖縄県感染・医療材料管理研究会」に変更することとしました。その後、感染管理という言葉は完全に市民権を得、いわゆる院内感染対策のみならず、消毒・滅菌および医療経済的な内容も含まれるようになりました。こういった時代背景をうけて2003年に「沖縄県感染管理研究会」に名称を変更いたしました。
感染対策の目的は、
①患者さんを感染から守る、
②職員を感染から守る、
③医療資源の適正利用、そして最終的に
④良質な医療の提供です。
感染対策の充実と徹底により、患者さん・医療従事者・社会に役立つ医療の提供に貢献したいと考えております。